la petite douce

ボッカチオ'70

以前から気になっていた映画を見ました。

「ボッカチオ'70」(1962/伊・仏)

ボッカチオ’70 HDマスター版<全長版> [DVD]

ペストが蔓延する14世紀のフィレンツェを舞台にした小説「デカメロン

迫り来る死から逃れようと男女が郊外の屋敷に籠り、1人10話ずつ、

喜劇や恋愛、残酷な物語を語り合うストーリーで知られています。

「ボッカチオ'70」は、この小説を下敷きにして描かれた

4話の短編からなるオムニバス映画。

メインで見たかったのが

ロミー・シュナイダー主演

ルキノ・ヴィスコンティ監督の「仕事中」

 

私が最初にロミー・シュナイダーを知ったのは

ジョニー・デップとまだパートナーになる前の

バネッサ・パラディが、

「白い婚礼」(1989/仏)という映画で、"ロミー・シュナイダー賞"という

将来有望な女優に贈られる賞を受賞したというのを目にしてから

その名を記憶したように思います。

ロミー・シュナイダーは、

フランスでは、カトリーヌ・ドヌーヴ同様

世界最高峰に君臨する女優と称され

1950年代、新たな時代のミューズとして台頭してきた

ブリジット・バルドーと「可愛い悪魔」(1958/仏)などで共演した

フランスの大御所俳優、ジャン・ギャバンと肩を並べる

名実ともに頂点にある女優として活躍し

ココ・シャネルも認めたその気品と美しさから

今でも度々ファッションアイコンとして語られることも多くあります。

この映画に興味を持ったのはHarper's BAZAARの、塚本香編集長が

「The Lesson」という動画の中の

"ファッションと映画は切っても切れない素敵な関係"の特集で紹介していて、

以来ずっと気になっていました。

最初は、着崩してもエレガントなロミーのシャネルスーツ姿が見たいという

イージーな気持ちで見始めたのですが

結果、ロミー・シュナイダーという女性の生き様を

深く知るきっかけとなる映画になりました。

それまでロミーが出ている映画といえば、ウディ・アレン監督の

「なんかいいことないか子猫チャン」(1965/米)という、

艶笑コメディーのイメージしかなく、

シリアスさなど微塵も抱くことはありませんでしたが、

ロミーのバッググラウンドを色々知っていくうちに、

ロミーの歩んだ人生そのものが映画になってしまいそうなほど、

華やかなキャリアとは裏腹に、数奇な運命に彩られながら

活躍した女優だったということを知りました。

生涯を通じてロミーの人生に深い関わりを持つことになる

アラン・ドロンとの恋愛、最愛の息子の死、アルコールやドラッグへの依存

継父からの搾取に蝕まれ、

パートナーとも支配的な関係を反復するようになってしまったことや

夫の自殺、心身ともに崩壊した挙句それでも映画に身を投じ、

43歳という若さで謎に包まれた死を迎えたこと。

どこか私生活を露出するようなロミーの美しくも繊細な表情は、

波乱の人生の中で生きていた片鱗が見え隠れするようにも見えます。

ロミーシュナイダー賞は、ロミーの女優人生に匹敵するほどの賞と思うと

あまりにも重たすぎるというか、とても気高く高尚な賞なのだと感じました。

 

世界に名だたる名映画「山猫」(1963/伊・仏)の

ルキノ・ヴィスコンティ監督による「仕事中」

政略結婚で貴族に嫁いだ資産家の娘であるロミーが、

放蕩すぎる伯爵に嫌気がさし、自分の存在意義を見出すために仕事

(自分が夫の娼婦になり前金を要求する)を見つけるというシニカルな話。

4作品中やはり異色を放っているというか

ヴィスコンティ監督自身が貴族の出身ということもあってか

貴族特有の憂鬱さや心情というものが綿密に描かれているように感じました。

オーセンティックで、衣装やインテリア、役者の立ち振る舞いに至るまで

とにかく抜かりない演出のきめ細やかさは圧巻。

ロミーのエレガンスとヴィスコンティ監督の重厚な作風が際立っています。

「去年、マリエンバートで」(1961/仏・伊)にも通じる

耽美的な印象を抱いていたら、この映画で伯爵が手にしていたのが

アラン・ロブ=グリエの小説で大変興味深かったです。

それと肝心のロミーのシャネルスーツ姿は言うまでもなく素敵でした。

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まるでロミーの分身のような可愛いネコちゃんも

ヴィスコンティ監督による計算された演出なのでしょうか…笑

 

後は

ヴィスコンティ監督と犬猿の仲とも言われ、

双璧を成す存在として知られているフェデリコ・フェリーニ監督の

「アントニオ博士の誘惑」

個人的にフェリーニの映画といえば、色んな意味でとにかく怖い(笑)

同じく、オムニバス映画で「世にも怪奇な物語」(1967/仏・伊)に

収録されている「悪魔の首飾り」も相当ホラーで衝撃的でしたが、

今回の「アントニオ博士の誘惑」は、

「女はそれを我慢できない」(1956/米)の

ジェーン・マンスフィールドのようなグラマーなブロンド美女の

アニタ・エクバーグがある日突然広場の巨大看板から飛び出してきて、

街を闊歩する。

性的なものに対して極度の潔癖症で激昂する堅物のアントニオ博士が

あれよあれよと翻弄されてしまうという、

少々滑稽ではありますが、期待を裏切らないホラー感が

イタリア式コメディ風に仕上がっていました。

博士が美女に翻弄されるパラレルワールド系といえば、

ジェーン・バーキン主演のワンダーウォール(1969/英)に出てくる

初老の科学者(コリンズ教授)にも通じる可笑さもあり、

自分の記憶の映画アーカイブを辿りながら楽しく鑑賞しました。

 

この映画は近未来の70年代にもしもボッカチオが著書に挿話するならば?

という発想で1962年に作られた作品ですが、

ボッカチオはペストが猛威を振るう中で父を亡くし、

その最中に「デカメロン」を執筆したそうです。

過激な内容であるが故に

日本でも翻訳されても何度も発禁されていたそうですが、

デカメロンの登場人物たちも、恐怖を凌ぐ為に明るい話題や、

高揚感に浸れる話題で陰鬱さを払拭し、

重々しい時間をなんとか豊かなものにしようと

生命力を奮い立たせていたのかもしれません。

限られた生活の中でいかに楽しみを見出すか?

現在のコロナ生活にも通じるものを感じてしまいます。

病は気からと言いますが、目に見えない敵に侵襲されないよう

気持ちだけでも前向きに保っていたいものです。

この「ボッカチオ'70」

様々な困難に見舞われながらも、最期まで女優としての人生を全うした

ロミー・シュナイダーの生きる姿勢に魅了された映画となりました。